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    道楽百景 その61:“なんとかなるさ”の入り口に

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    2025/06/05 18:00

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    なんともならない。

    言葉が、するりと上滑りする。
    最近、自分の言葉にそんな感触があった。(お気づきかどうか分からないが。)
    胸の奥で煮え立つ思いがあるとき、それをそのまま吐き出すと、ついアクのような言葉が浮いてしまう。
    伝えたかったものと、届いたもののあいだに、澱が残る。

    このような時、言葉はいつも心に追いつけないのだと痛感する。
    頭では伝えたいことがあるのに、口から出た瞬間、それはどこか違う形をしている。
    強すぎたり、弱すぎたり。肝心なところが抜け落ちていたり、余計な棘が立っていたりする。

    言葉は、すぐに転ぶ。
    たとえそれが本心であっても、うまく伝わらなければ、ただの「強い言葉」になってしまうこともある。
    感情は生ものだ。けれど言葉にするとき、少し粗熱を冷ます必要があるのかもしれない。
    熱いうちに手渡そうとすると、相手も、自分自身も火傷する。

    だから今、あらためて考えている。
    感情と言葉。その距離と、間にあるものについて。

    会話では、伝わることが目的になる。
    けれど表現になると、その「伝わらなさ」すら、美しく思えてくる。
    言葉は、少し黙っていたほうがいいときがある。音楽やアートのなかでは、特に。

    そもそも、すべてを言葉にしようとすること自体、少し無粋なのかもしれない。
    言葉にしきれない感情があるからこそ、人は歌い、描き、演じるのだろう。

    特に音楽では、意味のある言葉が意味を失い、意味のなかった言葉にふと意味が宿る、そんな瞬間がある。
    それは理屈ではなく、音と感情がふと重なる、一瞬のずれのようなものだ。
    説明しようとした途端、逃げていく。けれど、たしかにそこにある。

    言葉を信じすぎないこと。
    すべてを語ろうとしないこと。
    わからないまま、わかろうとすること。
    そんな不確かな営みのなかに、心の色彩は生まれてくる。

    だが、ここまで書いておきながら敢えて喋ってみることにした。
    「Happ Happ」というポッドキャストを、友人と始めた。
    言葉に悩みながら、言葉で遊んでみる場所。
    届けたいのに届かない、そんなもどかしさごと引き受けて、あーだこーだと喋っている。

    「WASIRADIO」の復活を待ってくれていた方もいたかもしれない。
    あれとは少し違うかたちだけれど、今の自分にしっくりくる温度で、もう一度マイクの前に座ってみることにした。

    クリストファー・ノーラン監督の映画『TENET』のラストシーンに、こんなセリフがある。
    「起きたことは仕方ない。
    この世界の理だが、何もしないことの理由にはならない。」

    それを聞いたとき、心のどこかが妙に静かになった。
    うまく言葉にできない感情に向き合いながらも、それを放っておかず、何かしらのかたちで差し出してみること――
    その不器用な営みを、肯定された気がしたのだ。

    その姿勢の先に何が起きても、「なんとかなるさ」と思えるしなやかな心を持つことができるのかもしれないと思った。

    昨今の僕の言葉が上滑りしているのは、きっと、
    僕自身の中にある新しい何かの──小さな前触れなのだと思う。

    なんともならないまま、
    それでも「なんとかなるさ」の入り口に、今、立っている。

    一緒にやると言ってくれた友人二人、Luiとさわちに感謝です。
    ありがとう。

    是非聴いて下さい。

    Happ Happ

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